2017年9月19日火曜日

6分後から始まる世界

現在イベントのために短い套路の練習を平行して行っている。

当会では、イベント用に楊式太極拳の14勢、28勢や双辺太極拳の14勢などをそれとして練習を行っている。
これらは競技用套路ではなくあくまでも伝統套路。

3~6分以内の短い套路である。

人間が集中して聴いたり見たりできる時間は大よそ5分。
第一印象が決まるのは最初の4秒と言われる。

だから表演用套路は6分以内にまとめられている。

そして礼を含む最初と最後が大事だと私はいつも指導するが、
人に与える印象が4秒で決められてしまうからだ。

だらだらと不揃いに出てきて、まばらに始まったのでは、もうそこで価値をつけられてしまう。
逆にどんなに良い演武をしても最後の礼に節度がなければ、
最終的にだらしなく見えてしまう。

「挨拶が大事」といつも私は言ってるが、
目が会ってから4秒でその後の関係や共有する時間が決まるからである。
私の営業経験から言うならば、
最初の4秒で契約がとれるかどうか決まるといっても過言ではない。

話を演武時間に戻すが、
演劇やクラシックミュージックのように変化があるものなら別だが
そうでなければ見ているほうは飽きてしまう。

私が作曲している頃はいつも4分前後になるように作っていた。
軽音楽で5分以上は正直キツイ。
いわゆる太極拳なども同じで、大きな変化がなくゆったりと連綿としているので5~6分というのは見ているものを飽きさせないギリギリの時間なのである。

しかし
太極拳の醍醐味は6分経過してから始まるといいたい。
もし健康目的で太極拳を始めるなら5分や6分では太極拳本来の気持ち良さは得られない。
それは実際に伝統套路を体験してみればわかる。
(わかるまでには時間はかかるが)

いずれも、これが私が徹底して伝統套路に拘る理由である。

熟練してくると、最初の1秒から気持ち良くなれるようになるが、
それは毎日毎日20分以上の伝統套路を行ってきた結果であり、いきなり1秒では決して気持ちよくなることはない。

伝統楊式太極拳では、最初は比較的優しい技で構成されている。
そして体温が上昇し、関節がゆるみ、緊張が解けて来た約6分以降から
分脚や踵脚などの難易度の高い技が出て来る。
それが終わると今度は低い姿勢の技が出て来る。

片足を上げるより、低い姿勢の方が高齢の方にとっては辛い。
低い姿勢が辛いのではなく、しゃがんだり立ったりが辛いのだ。
しかし24式太極拳(簡化太極拳)ではまだ体が温まらない間に踵脚と下勢という辛い動作が連続して出て来る。
6分以内に収めるためやむを得ない構成なのだろうが、健康目的で太極拳を行うには無理があるように思う。

車にも暖気運転というものがあるように、寒冷時にいきなり車をスタートさせるとエンジンに負担がかかる。
ましてもやいきなり急な上り坂を登ろうとしようものならノッキングしエンジンが止まってしまう。(インジェクターが採用された今の車はそんなことはほとんどないが)

套路も同じ。

演武しながらゆっくり体を温めていく。
温まると関節や筋の緊張がほぐれてくる。
すると体全身の気血の巡りがよくなる。
次第に体がゆるみ、
沈む感覚と空間に溶け込むような浮遊感覚が同時に得られる。

丁度その頃に、蹴り技や低い姿勢の技へと流れて行く。

伝統楊式太極拳には難病を克服するなど海外でも様々な研究実績がある。
しかし24式太極拳にはこれといった事例がない。

24式太極拳を否定しているのではない。
24式太極拳を覚えたらそのルーツである伝統楊式太極拳を習うことをおすすめしたいのである。

24式太極拳は表演や競技、検定には丁度良い時間につくられてある。
しかし恍惚とした気持ち良さを感じたり、更に上を行く健康づくりを考えるなら伝統楊式太極拳を強くおすすめする。

演武時間が20~25分と長いので表演には向かないが、
この時間でなければ決して得られない素晴らしい世界があるということをお伝えしたい。