2016年9月13日火曜日

進化する伝統拳

太極拳は大きく分けて伝統拳と制定拳に分かれます。

伝統拳は創始者から伝わる伝統太極拳が親族、伝人、継承者、弟子によって受け継がれてきました。
ご存知の通り400年前にビデオなどあるわけもなく、師から弟子へと伝わってきたということになります。

特に歴史に残る名手といわれる武術家達は、師から技を盗みそれを何年もかけ鍛練し技を磨く者が多かったと言われます。
楊式太極拳の創始者である、楊露禅ですら最初は陳式太極拳の稽古風景を盗み見し、技を覚えたと言い伝えられています。

一方、制定拳は競技や検定用として制定された太極拳なので、姿勢や動作などきめ細かな指定があり、それによって誰が行っても動作が統一されるよう制定されています。
制定されていることによって審査しやすく、又、集団演武を行う際も全員の動きに統一性が生まれ見た目も美しいです。

さて、伝統拳と制定拳の套路(型)はずっと同じスタイルが守られているでしょうか?
いいえ。
私が知る限り伝統拳も制定拳も常に進化と退化を繰り返しています。

因みに、以前もブログでお話ししましたように、進化が良く、退化が必ずしも悪いとは限りません。

因みに伝統拳の進化とはどういうものでしょう?
それは師のお考えによって異なります。
健康を重視する師であれば、武術的要素を省き体に負担がなく覚えやすいものに変えていくでしょうし、逆に武術志向の高い師であれば、積極的に体を鍛え高度な技を練れるように変えていくでしょう。

このように伝統拳は受け継がれていくことによって進化と退化を繰り返しているのです。
健康効果を重視することが進化とするなら、武術志向の師にとっては退化と考えるでしょうし、
逆に武術的要素を重視することが進化なら、健康志向の師にとっては体に負担が掛かることを懸念し退化と考えるかもしれません。
いずれもこれらは私が解釈することではなく、師によって考えは異なるということです。

私はこれらがどちらに傾くことなく、健康効果を十分得ながらも、強く美しい太極拳であるよう研究し、しかも学び手が戸惑うことのないよう今の伝統スタイルを極力維持しています。
いわゆる私が勝手に套路に変更を加えたりすることはありません。

仮に多少ぶれたとしても最小限にとどめていますし、どちらが正しいとか間違いというものではなく、どちらも武術的視野からみれば正しいのです。

但し、今後設立予定の武術班ではその理念や目的に従い、進化していく太極拳を行う予定で、
いわゆる強く美しく生きた太極拳を目指します。


ところで制定拳はどうでしょうか?

制定拳は基本的に武術的要素よりも、どちらかといえば健康効果を狙ったもので、先程も話したように採点しやすいよう細かく制定されています。(少なからずとも制定拳を経験した私の勝手な解釈です)

とはいうものの、年々変わっているのも事実です。
高齢者の愛好家が多いことから、体への負担を最小限にしようという配慮でしょう。

又、最近では勁力を養うため内面も重視しながら極力ゆっくり動くようにと指導しているようです。
これらのことから察するに制定拳もまた伝統スタイルに近づけて行こうという動きがあるように感じています。

いずれにしても、時代と共に変化していくのはごく自然なことです。
伝統拳も制定拳もその時代にあったスタイルを求めそれを広めようという動きがあります。

だから、「套路を覚えたからもういい」ということはないのです。

人も時代も太極拳も常に進化しているのです。